大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和35年(わ)1820号 判決 1960年10月17日

被告人 森田正行

昭九・一・一三生 ガス熔接業

主文

被告人を懲役六月及び罰金千円に処する。

未決勾留日数中一日を金二百円に折算して右罰金額に満つる迄算入する。

本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三四年八月十日頃河内市菱江一九三番地菱江青年会館裏広場の民謡踊会場において西尾英夫(当二十年)に対し些細なことに立腹してその顔面を平手で殴打して暴行を加え

第二、(一) 昭和三五年五月三十一日午前二時頃同市大字岩田四四六番地枚岡交通株式会社若江岩田営業所において同営業所主任兼タクシー運転者西村広(当二十五年)に対し八尾まで行つてくれと申し向けて同人より拒絶されたことに憤慨し矢庭に同人の面前で所携の日本刀一振を抜き払い之を硝子戸腰板に突き刺すなどして同人の身体に危害を加え兼ねない気勢を示し

(二) 前記犯行後間もなく同所二階運転手休憩室において運転者辻阪章(当二十八年)に対し八尾まで行けと命じ同人より拒絶されるやこれに憤慨し前同様所携の日本刀を抜き払つて同人に突きつけた上同室電燈のコードを切り落して前同様の気勢を示すと共に「どうしても嫌言うなら殺したる」等と申し向け

以て夫々兇器を示して脅迫し

第三、右第二の犯行現場まで登録を受けた刃渡約五十六センチメートルの日本刀(昭和三十五年押第344号の一)を携帯するに際し右刀剣の登録証を携帯しなかつ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(適条)

刑法第二百八条、罰金等臨時措置法第三条、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、銃砲刀剣類等所持取締法第二十四条第一項、同法第三十五条第一号

刑法第四十五条前段第四十七条第十条第四十八条第一項、刑法第二十一条、同法第二十五条第一項第一号

(無罪の判断)

本件公訴事実中被告人が正当な理由がないのに判示第二の各犯行の際登録を受けた刃渡約五六・五センチメートルの日本刀一振を携帯したとの訴因については検察官は被告人が右各犯行の際右日本刀を被告人が使用して脅迫したことが、、銃砲刀剣類等所持取締法第二十一条によつて準用される同法第十条にいわゆる正当の理由のない場合に該ると主張する如くである。しかし同条の規定は登録のある日本刀については同法の第三条一項の所持禁止の規定が適用のない結果所持すること自体は罪とならないけれども、例えば、人を殺傷する目的で登録日本刀を携帯して目的地に赴いた場合の如く日本刀を携帯することだけで、それ自身正当な理由がないと認められる場合を、刀剣等の所持に関する危害予防上の見地(銃砲刀剣類等所持取締法第一条参照)から処罰の対象とした規定であると解すべきで、日本刀を使用したことが正当な理由のない携帯になるから右規定に触れるものと解すべきではない。本件の場合について言えば、被告人が右日本刀を使用して西村吉広外一名を脅したことはあくまでも暴力行為等処罰に関する法律第一条の対象とするところで銃砲刀剣類等所持取締法の前記規定の関するところではないのである。

そして、被告人の検察官、司法警察員に対する供述調書、森田勇吉、森田国太郎の司法警察職員に対する供述調書の記載によれば被告人は、八尾市山本に住む伯父森田勇吉方から昭和三十五年五月二十三日頃ひそかに本件日本刀を持ち出しこれを被告人の自宅に持ちかえつていたが、同年五月三十一日午前一時頃右日本刀を伯父の許え返還すべく八尾へ行く自動車を頼むため枚岡交通株式会社若江岩田営業所へ赴いて前記の如き犯行に及んだことを認め得るのであつて、被告人が伯父の家から右日本刀を持ち出したことは正に正当な理由なしに登録ある日本刀を携帯したものということが出きるであろうが、右日本刀を携帯して前記岩田営業所へ赴いたことは、日本刀を正当な所有者の許へ返還する目的であつたものと認める外なく、正当な理由があるものと一応認めざるを得ないのであつて他に右認定をくつがえすに足る証拠がないので結局右訴因は犯罪の証明なきに帰するものであるが、右訴因は判示第三の訴因と一所為数法の関係にあるので主文において特に無罪の言渡をしない。

よつて以上の如く判決する。

(裁判官 原田修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例